ひびをたのしく

【M-1グランプリ2019】感想。「悪くないだろう」の功績

M-1グランプリ2019感想。「悪くないだろう」の功績
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

毎年、毎組「ウケますように」と祈りながら見ています。
何千組から選ばれた決勝進出者が面白くない訳がない。その面白さが発揮できる、ネタ、コンディション、空気、順番でありますように。きっと同じ願いの観客、視聴者がほとんどだと思います。

それでも毎年、何かが噛み合わないまま出番を終えてしまうコンビや、単純に自分の好みと合わず笑えないコンビが数組いる。そんな中、ミルクボーイが優勝を勝ち取った「M-1グランプリ2019」は、第1回戦から最終決戦まで、全員が面白かった。

審査員やコメンテーターの芸人さんだけでなく、SNSやニュース記事でも、多くの人がそのことを喜び讃える光景を見ました。好き嫌いや部分的な良し悪しは当然あったと思います。でも、それを超えた「皆よくやった」の空気感。
当事者たちの気持ちは計り知れないけれど、いち視聴者としても、とても一晩で消費しきれない、心に熱いものが残るエンターテインメントでした。

この多幸感を忘れないうちに、感じたことを残しておきたいと思います。こういうのは初めてなので口調がわからない…。
基本的に良かったところだけ残したい方針です。

それでは、

時を戻そう!

【M-1グランプリ2019】感想

1. ニューヨーク(616点・10位)

ニューヨークの芸風が、好きで、苦手です。
自分も斜に構えた視点を持っているし、彼らが弄る対象を面白がる側面がある。
それでも、共感を越えて「加担してはいけないな」と一歩引いてしまう時がある。それくらい彼らの皮肉は、解像度が高く、リアリティがあると思います。

そのうえで、今回のラブソングのネタは声を出して笑ってしまった。
笑い飯の西田さんが、GYAOの配信で「世の中にあふれるあれくらいの歌をダサいと思って面白がっている」とコメントされていました。今回のネタは、幅広い層がその意地悪な視点に加担できるようにチューニングされていて良かったです。毒が足りないと評されていたけれど、この時代に、この舞台で、ファンが求めるキレッキレの「ニューヨークらしさ」を出し切ってしまうと、爪痕こそ残せど「売れる」からは遠のいてしまったのではないかと思います。

松本さんに対する「最悪やぁ!」も、最高のタイミングで爆笑してしまった。嶋佐さんの無表情や胸ぐらをつかんでなじるくだりも面白かったけれど、やっぱりニューヨークをよく知らないと少し引いてしまうかもしれない。「ニューヨークらしさ」の出力を操りながら、いろんな媒体で見れるようになると嬉しいです。
トップバッターとしてこれ以上ない役割を果たされていたなぁ。

2. かまいたち(660点・2位/最終決戦1票)

今年の放送は昨年までと比べて「ラストイヤー」の演出が抑えめだったように思います。おかげで変な力が入り過ぎず、フラットな気持ちで見ることができました。笑御籤で「かまいたち」と出た時、盛り上がるぞ、と嬉しくなりました。
ネタ番組でも、バラエティやロケ番組でも、出演者に「かまいたち」の名前を見ると安心しませんか?M-1でも同じで、それってすごいことだと思います。

漫才はやっぱり、かっこいいなぁ、の一言。見ている間は夢中で笑えて、終わった後はその凄さがジワジワと押し寄せてきます。
かまいたちに関しては、このネタ見たことある、とかも関係ない気がします。テンポのいい掛け合いで気持ちよく笑った後に、「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら、絶対に認められてたと思うか?」の変化球。大好きです。

ボケに笑っちゃう感じがかまいたちの魅力でもあると思うけど、やっぱり松本さんコメントを受けて、濱家さんが気をつけていたように感じました。

3. 和牛(652点・4位)

笑御籤を引いた瞬間の「わっ」というリアクションでまさかと思いましたが、ここでの敗者復活枠!!!
そして和牛に決まった瞬間は、わかっていてもやっぱり興奮しました。M-1楽しすぎる。
ミキやマヂカルラブリーなど敗者復活戦のコンビたちの振る舞いも素敵だと思いました。敗退が決まって万感の思いだろうに、盛り上げのバトンを繋ぐように和牛を送り出していましたよね。

ネタは敗者復活戦で見たばかり。それでも新鮮に楽しかったです。「いいね!」でたたみ掛けるくだりは、流れるような発声と頭のてっぺんからつま先までキレキレの動きに見とれてしまいました。凄かった。

ここまで完成されていると、二人の飄々とした人柄も相まって「こなしてる」という印象になってしまうのも理解できる気がします。
2017年か2018年か定かでないのですが、M-1の後のラジオか何かで水田さんが「やれるだけのことはやった。もうどうしたらいいのか」というようなことを言っていた記憶があります。個人的には今年の振る舞いも、決して油断や慢心ではなく「やれるだけのことはやった」結果だったように感じますが、場数をこなせばこなすほど、腕を磨けば磨くほど、観客の慣れや、「こなしてる」問題が発生することがもどかしいですね。

来年はどうするのか?の問いに、「トリオで」「アメリカで」とはぐらかす水田さん。ここにも「もうやれることがない」という気持ちが反映されている気がして純粋に笑えずにいました。
来年のM-1で見られるとしても、そうでなくても、どんどん進化していく和牛の漫才を、これからも楽しみにしています。

4. すゑひろがりず(637点・8位)

和牛がはけた時点で、ほとんどの人が「この後キツイな」と我に帰ったと思います。そこからの、あの盛り上がり。各コンビの引きの強さと、ラグビー日本代表のくじ引きセンスが神がかってました。
※M-1放送後のAbemaTVの番組(月曜The NIGHT)で、ご本人が「(番組として考えた時に)逆に僕らしかない」「自分たちみたいな変な感じのが出る方がいい」と思った、と話されていました。オズワルドはこの後嫌だなと思っていたら、隣で三島さんが「俺たちに行かせてくれ」と言っていたと。かっこいい・・・。

競り上がり〜登場の練習からかなり念入りにされたそうですが、所作、発声、小物や衣装など、「ぽさ」のクオリティが高いほど面白く感じる芸だから正解だったのだなと思います。

ネタは富澤さんが言っていたように、ただただ楽しかった。コールのくだりはゲラゲラ笑いました。ワードや題材のチョイスが絶妙で、古語なのにすぐに理解できる嬉しさというか、気持ちよさもあると思います。
敗退コメントの「良いお年を」もすごく良くて。間や表情も漫才のキャラクターそのものでしたよね。キャラを突き詰める芸も素敵です。

これから色々なネタが見たいですし、お二人の顔つきも時代物映えがするのでドラマや映画なんかでも活躍してほしいです。

5. からし蓮根(639点・6位)

すゑひろがりずで一旦リセットされたあとの正統派。緊張感も含めて、普段のM-1の空気を一番感じるコンビだったと思います。「ファンタスティックばい!」は笑ったし、バック覚醒の爆発はとても気持ちよかったです。

からし蓮根の二人は、審査コメントの際のリアクションがとても印象に残っていて(笑)。一歩間違えたら大事故になる状況で、とにかくフレッシュに振る舞い続けるというミッションで、Excellent!!20連発くらい出してたと思います。

ツッコミの「クソ野郎が!死ね!」がサラっと流されたのも、上沼さんへのしつこい「ということは?!」が怒られなかったのも、二人が醸し出す空気感のおかげかなぁ。雰囲気がよくて、バランスもよくて、これからを期待させられる実力と魅力があって。審査員の皆さんがおっしゃっていたように、今後を応援したくなるコンビでした。

6. 見取り図(649点・5位)

今年クラスで一番ウケたボケとツッコミを詰め合わせたような(褒めています)、親しみやすくて楽しい漫才でした。
基本的に弄り合い貶し合いなんだけれど、ワードセンスが良すぎて飽きないし不快にならない。去年はちょっと斜に構えたコンビなのかと思って、斜に構えて見てしまいました。実力発揮できていなかったんだなぁ。
「みさえか何かですか?!」「ベジータか何かですか?!」めちゃくちゃ笑いました。

コメントも面白かったし、噛んだ時や厳しい指摘を受けた時も悲壮感なくリカバーしていて、見ていて安心しました。塙さんが言っていたように二人を知れば知るほど面白くなるのが分かります。バラエティ番組でもさらに活躍してほしい。

7. ミルクボーイ(681点・1位/最終決戦6票)

予習も全くしていなかったので、本当の初見。今年地上波が2回目と言っていたけれど、二人からは変な緊張感も感じず、掴みからネタに集中できました。

「コーンフレークはね、まだ寿命に余裕があるから食べれてられんのよ」あたりでたまらなくおかしくなってきて、あとはもう笑いっぱなしでした。行ったり来たりするフォーマットの斬新さももちろん魅力だけど、着想力とワードセンスが唯一無二だからどんな題材で作っても面白くなるのだろうと思います。裏の五角形大きいとか、ミロとフルーチェとか、生産者の顔が見えないとかどうやったら出てくるんだろう。

SNSでケロッグさんが反応されていましたが、真面目そうな人柄がお茶の間に愛されそうだし、CMのオファーがたくさん来そうですよね。どうかその時の台本はミルクボーイのセンスにお任せしてほしい。

最終決戦も三者三様で全組面白かったけれど、最高得点を取ってのこの結果。
M-1史上稀に見る、文句なしの王者だったと思います。

8. オズワルド(638点・7位)

ミルクボーイの最高得点の後で、力まない、普段通りの漫才ができるのはオズワルドくらいだったのでは。期待通り独特な間と言葉選びが素晴らしくて十分ウケていたけれど、「もっとウケていいのに!」と何度も思いました。私たち観客の方がニュートラルになれていなかったことが悔やまれます。

満場一致の「ネタ順が悪かった」だと思うので、来年以降、全てがバッチリ噛み合ったオズワルドを見るのが楽しみです。あの空気感でM-1王者を掻っさらったらめちゃくちゃかっこいいですよね。早速エピソードトークで細稲垣選手をネタにしているところも好きです。

9. インディアンス(632点・3位

ボケの田渕さんが序盤でネタを飛ばしてしまったそう。何度見ても気がつかなくて、後から知って驚きました。きっと成立しなかったくだりがあったのだろうけど、それでもあの勢いでたたみかけるボケに終始圧倒されてしまいました。

審査で「平和すぎる」という指摘があったけれど、インディアンスのボケスタイルが変わったら悲しむ人の方が多そう。底抜けに明るいキャラクターも時代にも合っているし、ネタが飛んだ影響による指摘だと思いたいです。
きむさんの昔の写真も気になりすぎるので、バラエティ番組などでエピソードトークも聞いてみたい。

これだけ最後に言いたいんですけど、田渕さんの顔、誰かに似てるなぁとずっと考えていたら、フシギダネでした。

10. ぺこぱ(654点・3位/最終決戦0票)

昨年のおもしろ荘で好きになったぺこぱ。今年全然見ないなぁと気にしていたので、M-1決勝進出の報にまず驚き。M-1という舞台にハマるのか、審査員の方がどう受け取るのかと少し心配もあったけれど、文句なしに面白いステージでした。
ぺこぱが評価されている様を見ていると、ちょっと泣けてくるくらいのものがあります。

もちろん、ただ優しい新しいというだけで評価される世界ではないですよね。
太勇さんは“ツッコむと見せかける”技術がすごいんだろうなと思います。「っ!休〜憩〜は取ろう!」「っ!知らねぇーーんだったら教えてあげよう」。観客はグワンと振り回されるから余計面白い。
何度も見ていると、シュウペイさんの演技とキャラクターも良くて。ゆとり感というか、ポンコツだけど可愛げがあって憎めない雰囲気が、より優しい世界を作りあげていると思います。表情を変えるタイミングも絶妙。コメント中も真面目な太勇さんの隣で矢面に立っていたように思いました。
「ええっ…急に正面が変わったのか?」「宇宙人が乗ってくるってことは、宇宙船が壊れてる可能性がある」等、トリッキーな笑いもセンスを感じて好きでした。

話はズレますが、

ぺこぱの、他者を責めない「自責思考」は、現代を生きやすくするための思考法だと思っています。必ずしも「自分が原因かも」ではなく、「誰も悪くないんだ」「これも悪くないじゃん」と考えることも同じです。
私がぺこぱを見ていて泣きそうになるのは、もちろん苦労が報われて良かったと思う気持ちもあるけれど、これをお笑いでやってくれてありがとう、と思うからです。学校の授業やビジネス本、SNSの炎上からも色んなことを学ぶ時代ですが、心から笑いながらハッと気づかされる。これが一番パワーがあると思います。

他人を責めそうになった時、心の中で「ノリツッコまない」をやってみる。
闇に飲まれそうになった時、心の中で「悪くないだろう」と言ってみる。
ぺこぱの漫才を思い出して心が軽くなることが、これからたくさんあると思います。

一方で、この漫才がそんな大義名分の元ではなく「誰もやっていない面白い漫才」「時代にあったお笑い」を追求した結果であることが素晴らしいと思います。そんな柔軟なセンスを持ったぺこぱには、イメージやテーマに縛られずに面白いことをし続けてもらいたいです。

1年を振り返り行いを省みるこの年の瀬に、ぺこぱの漫才を見て笑う機会があったことをありがたく思います。

終わりに

千鳥のM-1反省会の冒頭で、大悟さんが「全員面白かったし、全員得したんだよ。誰も損してないからな、と言いにきたんだ」と言っていて、【M-1グランプリ2019】の良かったところはその一言に尽きるな、と思います。

これまで2008年のノンスタ、ナイツ、オードリーが最終決戦に残った大会が私にとって一番のM-1グランプリでした。心から笑えて、ワクワクするようなドラマがあって、笑い飯の「思てたんとちがーう!」が聞けて。
2019年大会はその雰囲気に似ていたし、それ以上に盛り上がったような気がします。

伝統的なスタイルも新時代のスタイルも、
喋りやテクニックの漫才もキャラや工夫の漫才も、
ハイテンションもローテンションも、
優しい世界も意地悪な目線も、
全部のお笑いが面白くて。

それぞれの世界でそれぞれの道を進めばいいんだ、
どんな道を選んでも「悪くないだろう」と思える自分でいよう。
大袈裟じゃなく、そんな新しい視野を与えてもらった気がします。

あ〜楽しかったなぁ。